抜毛症や皮膚むしり症は、病気としての認知度が低く、患者ご本人も病気の認識がないケースが多くみられるようです。ともに原因ははっきり分かっていませんが、ストレスや抑圧された感情などの精神的・心的な原因があるケースが多く、病院へ行く場合は心療内科が推奨されます。ただ、心療内科に行くことには抵抗感を感じる方も多くいらっしゃいます。また原因がはっきりしないだけに、治療法も確立されていないとも言われ、実際のところ、病院へ行かずに、悩んでいる方も多数あるようです。どんな治療が行われているか、etcをQ&A形式にまとめます。
目次
抜毛症・皮膚むしり症はどんな病気
従来、強迫障害の1つで、「わかっちゃいるけどやめられない」行動、あるいは、その行動にいたる思考、などに悩む疾患とされていました。髪や眉毛、体毛を自ら引き抜く、唇・手指・足などの皮膚を自ら剥(む)いてしまう、それらの症状をひとまとめに「強迫症」の症状の1つとされていましたが、現在は、それぞれが独立した病気と考えられています。
ただ、共通点が多くあり、抜毛症と皮膚むしり症の両方を併発している方も一定あります。
そのため、病院における治療手法にも共通点があります。(後述)
原因は精神的な抑圧、ストレスとされます。
症状としては、毛髪を引き抜く、皮膚を剥く、などの行為が、精神的抑圧や不安・ストレスの解消として行われます。それらの行為は、一定の痛みを伴う可能性があるため、自傷行為とする見方もあります。
なぜ、くり返すか?については、それらの行為で、(一般的には)なんらかの快感が得られると考えにくいため、その行為の瞬間の緊張感を求めている、その行為を行っている間の集中した充実感を求めている、などの見方があります。また、ちょっとの痛みが快感に似た感覚があって止めることができないと感じる方もあります。
しかしながら、いずれもすべての患者さんに共通するわけではありません。
参考:抜毛症と皮膚むしり症の症状や悩みの共通点
1. 男女比では、女性が多く、成人の場合は特に7割以上が女性とされる。小学生以下の場合、男女比は同等。近年、思春期から20代の男性に増加傾向がある。
(女性の場合、月経に関連して症状に変化がみられる)
2. ともに原因ははっきりしないが、ストレスや精神的な要因があると考えられている。
3. 本人もまったく無意識である場合も多く、手持ち無沙汰や退屈な時に、意識せずに髪や皮膚に手がいってしまい、行為に及ぶ傾向もある。
4.(上記3の) 無意識と逆に、自身の認識の中に「剥きやすい皮膚の形状」あるいは「抜くことで、快感が得られやすい毛」などの基準があり、意図的にその条件にあう皮膚や毛髪を探すことも行われる。(この行動が、無意識的か意識的かについて本人もわからないケースもある)
5. 皮膚むしりや抜毛をやめられない理由として、直前やその最中の緊張感、あるいは、行った後の満足感がなどがあげられる。一方で、行った直後または剥いた跡、髪の薄くなった部位や禿げを見て、罪悪を感じることもあり、それが悩みになっている。
6.日常生活への支障として、抜毛による薄毛や、皮膚むしりによる「さかむけ」や炎症ある皮膚を他人に見られることを気にするストレス、さらに該当部分を隠さねばならない、さらに炎症の部位によっては、手指の日常作業に支障が出る場合もある。
抜毛症と皮膚むしり症の治療
薬はあるのか?
抜毛、皮膚むしりをやめるための薬
抜毛症・皮膚むしり症、どちらにも効果が実証された専用治療薬は無いようです。いずれも治療の目標は、「(抜毛や皮膚むしりの)行為を行わない、繰り返さない」ことですが、その行為をやめることが出来る薬はありません。
ただ、その行為の頻度・回数を減少させるために一定の薬が使用されていることも事実です。
その薬は抗うつ薬の一種で「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」が有効であると言われています。ただし、その効果を裏付けるデータは十分な検討がなされているとは言えません。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、患者に抜毛症・皮膚むしり症の患者に抑うつや不安の症状がみられる場合は有効とされ、クロミプラミンなどが使用されています。
ジェネリック医薬品も出回っています。
アナフラニールは、気分の抑揚に影響を与える「脳内伝達物質セロトニン再取り込み阻害薬」と呼ばれ、主にうつ病患者のセロトニン分泌を促進して気分の落ち込みや不安を改善する薬です。
抜毛、皮膚むしりのアフターケアの薬
アフターケアについても抜毛症・皮膚むしり症、それぞれ専用のい医薬薬はないようです。
抜毛症には、医薬品ではないものの、抜毛行為によって傷ついた頭皮・毛根のための専用ローション「トリコチロアール」があります。長年の研究によって開発されたローションで、育毛効果があるとされます。
(上記に女性向けとなっていますが、成分に男女の区別はなく、男性でも使用できます。)
心療内科における薬以外の治療:認知行動療法・習慣逆転療法
心療内科における患者さんへのアドバイスの代表例として、認知行動療法があります。
皮膚むしり症、抜毛症の改善にむけた習慣逆転法とも言われ、これで症状が軽減することもあります。概ね患者が教わるポイントは下記です。
・自分がしている行為に対する自覚を高める
・問題の行為の引き金になる状況を特定する(記録する)
・問題の行為(抜毛や皮膚むしり)をはじめそうになったら、別の行為に置き換えるなど、皮膚むしりをやめるのに役立つ対処法を実践する。別の行為を何にするかは、個人によって異なり、実効性・有効性を高める重要なポイントです。例として、こぶしを握る、手の甲上に座る、編み物を行うなど、手に関するものが多いですが、散歩に出かけるなど、まったく異なる環境・空間へ移動することも有効。
また、問題の行為を実行しにくい環境を自ら整える方法もあります。
皮膚むしりを実行しにくいように、皮膚むしりの対象となる部位にローションを塗ることで、肌をむしり行為ができない状態にする。
また、「ささくれ」や傷口の「かさふた」も皮膚むしりの行為の発端となりやすいので、これらを発見したら、すぐに爪切りなどで、取り除く。
これらの行動がいつでも起こせるようにローション・リップクリーム、ハンドクリーム、爪切りを携帯する。(携帯用を事前購入しておく)
指の皮を剥く人が敢えてマニュキュアで飾り、その維持を心がけることで、皮膚むしりを改善したケース、あるいはギター演奏を始めた結果、指先を大切にするように心がけ、指の皮膚むしりが改善したケースなども、認知行動療法の方法論に似ています。
抜毛症・皮膚むしり症の回復について
1.抜毛症で抜けた髪はどれくらいで生えてきますか?
また生え揃うにどれくらいかかりますか?
個人差が大きいようです。
髪を引き抜いた場合に、毛根が残っているか?否かによって、髪の再生スピードも異なるでしょう。半年でかなり再生したと人もあれば、1年半でも7割程度の再生に留まる人もあるようです。
いずれにしても、ストレスになる原因をなくし、適度な運動と規則正しい生活でリズムを取り戻すこと、頭皮をいたわること、頭皮を適切な環境に保つことが大切です。
2.髪が再度生えてくる方法は?
加齢による薄毛の場合は、男性ホルモンの影響があるケース(いわゆる男性型薄毛症AGA)には、ミノキシジルなどの発毛薬がありますが、こうした薬も抜毛による薄毛には、効果はないと考えられます。それは原因が加齢や男性ホルモンではないからです。
ただ、トリコチロアールは、発毛薬品ではないものの、育毛をたすける成分が配合された抜毛症専用のローションであるため、効果が期待できます。
3.抜毛症で、抜いたところに生えてくる髪の毛がうねうねしています。抜毛する前はストレートでしたが、なぜでしょうか?
抜毛後の頭皮は毛穴を含めかなりのダメージを受けています。具体的なダメージとして、頭皮の乾燥や炎症などがあります。そうしたダメージが修復されるまでは、健康な(あるいは元気のいい、太い)髪が生えてくる事が難しくなります。そのため、毛髪が細い、うねりがある、あるいは抜毛前と色が異なる(薄い)毛髪が生えてくることがあるようです。
一般に、抜毛後は毛穴が緩くなる傾向があり、髪の毛が抜けやすくなる場合がありますが、
可能な限りある程度の長さまで新しい髪を大事に育てることに努めましょう。
頭皮(毛穴)が健康な状態に戻れば、以前のように健康な髪も生えてきます。
やはり、こうした症状は、頭皮をいたわることが有効で、トリコチロアールが良い効果を生むと期待されます。
やめたくてもやめられない
抜毛癖のための発毛促進剤・トリコチロアール
4.抜毛症で抜いてしまった毛はもう生えてこないのですか?まったく生えてくる様子がありません・・・。
個人差があり、また、同じ人であっても、部位によって髪の再生スピードは一定ではありません。したがって、いつまでに、どれだけ生えるか?は誰も答えられないでしょう。
ただし、多くの抜毛症経験者は、治癒・回復を経験し、キレイさっぱり治った人もたくさんおられます。
生体・科学的には、髪の毛の寿命が4年位なので健康な生活をしていれば、抜いた部分含めて、4年後には毛髪の大部分が生え変わることが考えられます。一般に、髪の発生サイクル(産毛が生えて成長して抜ける期間)は、4年から6年です。長い目でみると、全部生え変わるわけです。そのためにも、まずは抜かないことが大切です。